全国町村会

生きた博物観の育成を

東京大学名誉教授 西川 治 (第2277号・平成11年6月21日)

治に居て乱を忘れたあげくに、貧すれば鈍するようでは、世界の笑い者にされても仕方がない。格物致知を怠り、選良ならぬ営利徒たちの失政・失策は、国民の負担を強いて、不安感をつのらせている。せめてもの慰みは、高度経済成長の優れた置土産、博物館・美術館などの文化施設である。

昭和57年度には時の自治大臣世耕政隆氏が地方行政と文化とのかかわりに関する懇談会(座長は梅棹忠夫氏)を設置して、「住民の日常生活に密着した生活文化の振興・充実にも力を入れる必要がある」と提唱し、文化行政に大きな弾みを与えた。たまたま市町村制百周年記念と重なる博物館ブームが起こり、すでに1988年には全国で2,574館を数えた。(財団法人日本博物館協会調べ)その後も増えつづけて最近では約3,700、小規模な施設を加えると優に5千件を越えているらしい。

ところが今や、福祉行政が優先し、不況とリストラ、緊縮財政のもとで文化関係の予算は、とかく削減の対象にされやすい。そうした状況の中で博物館の活性化をはかるには、(1)学校の週5日制の実施に伴ない、博物館を総合学習の場として活用するために国や都道府県が人員や財政上の助成を格段に増やす、(2)学芸員の処遇の改善、(3)優秀な企画展をはじめ各種の表彰、(4)文化行政の広域的協力、(5)近隣の大学や研究機関との連携、(6)支援ボランティアの制度的養成、などが必要である。

ミュージアムと言えばすぐ芸術的な建物を連想するが、そのギリシア語はミューズの女神たちの場所を意味し、建物だけに限らない。まだ“博物館”がない自治体も少なくないが、野山や海浜などかけがえのない“野外博物園”、あるいは既存の施設や文化遺産などの活用も考えてみたい。立派なハコ物の維持管理費に苦労するよりも、利用者たちの博物観を生き生きと創造的に育成する工夫と努力を重ねたいものである。

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