全国町村会

精子は助け合って卵子を目指す

筑波大学名誉教授 村上 和雄(第2809号・平成24年8月6日)

ヒトを含めて、地球上のすべての生物はオスとメスの二つの異なったもの同士が協力して子孫を残す。 

一個体が生涯につくる卵子の数に比べ、精子の数は圧倒的に多い。このため、雌は自分の貴重な遺伝子を運ぶ卵子をより適切な雄に渡そうとし、一方、 無尽蔵に精子をつくる雄は、貴重な卵子の獲得のために、他の雄を蹴落とすことに必死になる。このような異性をめぐる競争は、進化の一つの原動力と考えられ、 交尾後の精子の競争も、一番乗りを目指して激しく展開されると考えられてきた。 

しかし、この精子競争の世界に、ごく最近、驚くべき事実が判明した。 

ある種のネズミにおいて、卵子に向かう精子が、他の精子と群がって集団をつくり、単独の時よりも速度を増して泳ぐことが見つかった。これは、 過酷な受精レースにおいて群れをつくることにより、水の抵抗を避け、エンジンの出力を高めるための協力行動と考えられる。しかし、協力体制は、ゴール直前で崩れ、 最終的に受精に至る精子は一個だけである。この一個の精子のために、非常に多くの他の精子は、卵子に到達する直前に討ち死にする。 

マウスには、生涯にわたって一夫一妻を貫く単婚型と、一分間に複数の雄と複数回交尾する一妻多夫の乱婚型が存在する。どちらの型の精子も集団を形成し、 単独で泳ぐよりも、はるかに速く泳いだ。しかし、乱婚型マウスの精子を使ったすべての実験で、同じ雄の精子同士が群れをつくることが確認された。 

さらに、興味あることに、最も近い血縁に当たる兄弟の精子が存在した場合でも、やはり、同じ雄の精子同士で群れをつくることが判明した。ちなみに、 哺乳動物の95%は乱婚型である。 

これまで精子は、素早く動く尾を持ったDNAを運ぶ単なる袋だと考えられてきた。受精は一個の生物の始まりであり、1つの細胞に過ぎない精子が、 お互いに相手を厳密に見分ける機能を持ち、目的を同じくする仲間と手を取り合って、助け合い、利他的な協力行動をとることは、全くの驚きであり、 その仕組みに生命の神秘を感じずにはいられない。   

 

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