全国町村会

細胞同士の助け合い

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2715号・平成22年4月5日)

過去100年にわたって、がんを治すために膨大な研究費がつぎ込まれ、多くの研究者の努力が積み重ねられてきた。そして、この分野で35人ものノーベル賞学者が誕生した。しかし、一部のがんをのぞいて、最高水準の医療をもってしても、がんを完全に治すことはできない。

がん遺伝子の発見者ロバート・ワインバーグ教授は「生体の複雑な仕組みを考えると、人ががんにならない方が奇跡だ」とさえ言っている。

がん細胞の特徴の一つは、急速に成長する能力を持っていることである。しかし、この能力は胎児や成長期の子供も持っている。

もう一つの特徴は、移動する能力である。正常な細胞の殆どは、本来あるべき場所を離れるとアポトーシス(自死)を起こす。しかし、がん細胞は遺伝子の異常によって、本来の場所から離れても、生きていける能力や、急速に成長できる能力を獲得している。

がん細胞の最大の特徴は、死なない能力を持つことである。これは正常細胞には全くない特徴で、正常の細胞は原則として、一定の役目を終えるとアポトーシスを起こし、死ぬ能力を持っている。

細胞は死ぬべき時に死ぬことが非常に重要で、細胞は生と死がペアになって生体内で機能を果たしている。

一方、がん細胞は全体の調和を乱して増殖し、転移して、全体の機能を破壊してしまう。しかし、正常細胞は自分を犠牲にして見事に他を生かしている。

最近、生体内の特定の遺伝子をねらい打ちして消すこと(ノックアウト)が可能になった。しかし、生体内で重要な役割を演じているはずの遺伝子をノックアウトしたのに、そのマウスには異常が全く現れないという実験例が次々と見つかった。

その理由は、生体内では一つの機能がダメになっても、それを補うための機能が準備されていたのである。生体の機能は、単なる部品の集まりではない。遺伝子、細胞、臓器などがお互いに支え合い、助け合って、個体を生かすために見事に働いているのである。

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