全国町村会

陽気な心は遺伝子を活性化する

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2618号・平成19年10月15日)

近代西洋医学は、ヒト全体から臓器へ、臓器から細胞へ、細胞から遺伝子などの物質へと細分化された方向で研究が進められ、目覚ましい成果を上げている。そして、ヒトゲノムの完全な暗号解読(塩基配列の決定)が2000年になされた。遺伝子の大切な働きの一つは、その情報を親から子、子から孫へと世代を超えて伝達することである。

しかし、もう一つの非常に大切な働きは、遺伝子は、いま生きている我々の中で一刻の休みもなく働いており、それが見事にコントロールされていることである。そして、その乱れが病気の原因であると考えられ、いまそのメカニズムが少しずつ説き明かされようとしている。

その中で、私はこれまで20年間にわたる遺伝子研究などに基づいて、「精神的ストレスを含む多くのストレスが、遺伝子スイッチのオンとオフに関連している」という作業仮説を提出している。

この仮説に基づいて、笑いのような陽気な心が遺伝子のオン・オフにどのような影響を及ぼすかについて、吉本興業と共同して実験を開始した。その結果、笑いが糖尿病患者さんの食後の血糖値の上昇を抑えること、その際、遺伝子のオン・オフのパターンが変化することを見出した。

遺伝子のスイッチのメカニズムの解明が進めば、近代自然科学の難問とされてきた、精神と物質、心と身体の関係を理論的に説明できる突破口が開けると期待できる。このことは、要素還元主義的な医学やライフサイエンスの研究、ひいては人文・社会科学の領域までをも全人的な方向にパラダイムシフトする契機となる。

その結果、従来型人類社会のあり方が根本から変革される大きな動因となることが予見される。

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