全国町村会

地域で暮らし続ける意味

早稲田大学教授 宮口 侗廸(第3006号・平成29年7月10日)

筆者が座長を務める総務省の過疎問題懇談会では、この数年、日常生活を支える諸機能の維持が困難になっている地区について、集落ネットワーク圏の形成、さらには新たな地域運営組織の立ち上げなどを提言してきた。都市の暮らししか知らない人は、そのような不便なところに暮らすことを不幸と決めつけるかもしれないが、農山村では、かなり歳をとっても、美味しい野菜を自分でつくるワザがあり、多くの高齢者は住み慣れた家でゆったりとマイペースに暮らすことを何よりも望んでいる。気心の知れた近所づきあいもある。この落ち着いた生活のリズムから、明るい笑顔が生まれるのである。この、ある意味で幸せな暮らしをどう支えるかは、未来をどうつくるかと共に、町村の基本的な責務だと思う。

吉野林業の発祥地で、紀の川・吉野川の最上流にある奈良県川上村は、この20年水源地の村づくりで山村の価値をアピールしてきた。しかし奥地集落の過疎化は例にもれず深刻で、店舗もなくなり、やむなく平野部の子どもの家に離村する人も増えた。川上村はこの状況を打破するために、昨年、小さな拠点を整備し、移動販売を村が主導するという思い切った取組に着手した。

川上村には、山麓の町の食品スーパーが以前から移動販売に入っており、これとは別に奈良コープの宅配もあった。これを村が設立した一般社団法人かわかみらいふが引き受け、徹底してすべての地区に食品を届けるシステムをつくったのである。移動販売は、ドライバーがそのスーパーからその日の地区の人が望むものを予想して仕入れ、スーパーと同じ価格で販売する。地区に到着すると住民のなじんだ川上小唄が流れるという仕掛けである。

地区のふれあいセンターを小さな拠点にふさわしく改修し、隣に荷捌き所もつくった。より奥地に入れる軽トラと、ある程度の商品が積める1トン車に2人ずつ勤務、すべてUIターン者である。さらに法人は今年度から村に1軒のガソリンスタンドを継承し、ここにも職員を配置した。ふれあいセンターにはコミュニティ・カフェもあり、有料のコピー機も置かれている。月1回の出張診療の場でもある。

法人理事長は地区住民であり、まさに行政と村外の民間業者と住民の協働の先駆的な仕組みといえよう。販売に関しては業者から学ぶことも多い。<かわかみらいふ>のネーミングもしゃれている。地域の暮らしを支えるためのモデルとして、出発には内閣府と総務省の交付金が活用された。全国の町村行政にこれに勝るとも劣らないさらなる工夫を願うものである。

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