全国町村会

村立の美術工芸高校の大いなる価値

早稲田大学教授 宮口 とし廸 (とし=にんべんに同)
(第2837号・平成25年4月15日)

3月に入ってからも北海道の暴風雪は止まず、北国のきびしさが際立ったこの冬であったが、その冬のひと日、音威子府村を訪れる機会があった。この村は旭川と稚内の 間にある人口900人に満たない北海道最小の自治体であるが、美術工芸に特化した村立の高校を持つユニークな存在である。昨夏、長野県木島平村で開催された 全国村長サミットで左近村長にお会いし、この冬の訪問となった。

北海道には定時制で出発した町村立の高校が、その後も町村の努力によって存続し、ユニークな教育で名を挙げているところがいくつもある。昨年は町立ニセコ高校に お邪魔し、地域特性を活かした農業科学・観光リゾートの2コースで生徒が立派に育っている様子を実感した。

音威子府高校は昭和25年に定時制で出発し、同59年に全日制工芸科として再出発した。そして平成14年に現在の「北海道おといねっぷ美術工芸高校」という校名に変更し、 学年1クラス40名を美術コースと工芸コースに分け、ハイレベルの教員を迎えて教育の実を上げてきた。近年では志願者も2倍前後を維持し、沖縄県や奄美群島からの生徒が 入るなど、遠方にも知られる存在となっている。美術展等の入選が多いだけではなく、小さな高校でありながら、全国高校スキー大会クロスカントリーの部で総合優勝するなど、 驚くべきパワーを見せている。

基準的な教員の給与等は地方交付税に算入されるが、加増教員の人件費、施設の維持管理、教材のための負担、さらには寄宿舎等で、毎年の村の負担は1億円を超える。 施設の更新にはさらに多額の費用が必要で、今は女子生徒の割合が増えたために、女子寮の増築の費用の捻出に苦労しているとのことであった。村ではかつて村外の生徒が多い 高校に多額の費用をかけることについて相当の異論があったというが、今はない。生徒は全員住民登録し、住民運動会は生徒全員の参加で盛り上がる。生徒と学校関係者の 合計は170名ほどになり、全人口の2割を超える。これこそ過疎の村における活力のもとでなくて何であろう。生徒が外出時に村の人にあいさつを欠かさないことも、 村を明るくすることに大きな役割を果たしているという。

筆者がお邪魔した時は、ちょうど卒業制作のさなかで、一心不乱に励んでいる姿に大変な迫力を感じた。左近村長はとりわけこの高校の存在価値を認識しておられ、 その場にも駆けつけてくださったが、施設の更新はこれからも必要である。このような大いなる価値を町村が育ててきたことに敬意を表し、地方からこの価値が失われないような、 国の支援の確立を望むものである。

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