全国町村会

スローフードからスローライフへ

早稲田大学教授 宮口 とし廸 (とし=にんべんに同)
(第2422号・平成14年12月23日)

最近スローフードという言葉が、紙面を賑わすようになった。基本的には、じっくり育てた地域の食材を、時間をかけてゆっくりと味わおうということのようである。そうすれば必然的に、楽しい会話も弾む。地域の個性を主張することが得意なイタリアらしい発想であると思う。ようやくわが国でも、時間をかけた手仕事の価値が再評価されている。

今年度の全国農村アメニティコンクールで農水大臣賞(最優秀賞)に輝いた山形県の白鷹町には、しらたか地域の桑で育てた天蚕の糸で紬を織る人や、昔ながらのやり方で和紙を漉いている人がいる。ソバを蒔いて自分で収穫し、味わい深く打つ人がいる。地域の食材を活かして、スキー場のロッジを夏場に農家レストランとして活用している「まあ、どんな会?」というマドンナグループもいる。

そしてスローという点では、上には上があった。この町には、「古典桜」と呼ばれる樹齢500年を超えるエドヒガンザクラが何本もあるのだが、そのうち「薬師桜」と名づけられた樹齢1200年の桜の2世を、コツコツと育てている人がいた。単なる実生では他の花粉が混じる可能性があるために、そこからさらに接木するのだという。育てた苗はすでに全国各地に送られているが、これが1000年経てばまた薬師桜に育つという話は、迫力があった。これらの取り組みが、自らの意思で、マイペースで進められているところが、さらにすばらしかった。

白鷹町を訪れた10月の週末、たまたま名前の似ている北海道の白糠町しらぬかで催された、釧路管内のスローフードフェスタに参加した。ここはもともと海の幸に加え、エゾジカなど陸の食材も豊富なところであるが、さらに最近、羊を飼育してその本格的な料理の普及に努力している人や、イタリアで立派なチーズ職人になって帰ってきた人などが、地域の新しい食文化を盛り上げている。遠くの工場でつくられた加工食品を何の疑問も抱かないで食してきた日々が、日本の一次産業を駄目にしてきたのだとあらためて思う1週間であった。

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