全国町村会

物語が生まれてこそ

ジャーナリスト 松本 克夫 (第3022号・平成29年11月27日)

日本のものづくりに黄信号がともっている。電機、自動車、鉄鋼などの主力産業の代表的企業で不祥事が相次いでいるからだ。これだけ不正会計、不正検査、不正な品質表示が重なれば、日本製品への信頼は揺らぐ。日本企業が抱える病根の解明が必要だが、もしかしてバブル崩壊以降のリストラ経営が響いてはいないか。目先の利益優先で、非正規社員を増やしたが、技術革新力は衰え、生産現場が疲弊しているという指摘もある。

産業界の危機は自治体にとっても無縁ではない。2000年代以降の市町村合併や人員削減などの分権から行革への流れは産業界のリストラの後を追ったともいえるからだ。忙しすぎると批判される学校を含め、自治体の現場も余裕がなくなったという話はよく耳にする。それもあってか、長年、心を打つ物語を追い求めて地方を歩いてきた者の印象でいえば、物語の種が乏しくなっているようだ。

そう感じていた折、栃木県芳賀町にある有限会社ドンカメの小久保行雄社長に出会った。ドンカメは生ごみなどを堆肥化する会社である。小久保さんは一農家にすぎなかったが、店や家庭から出る生ごみを集め、堆肥にし、田畑に施せば、地域の資源循環システムが成り立つと見て、仲間とこの事業を始めた。小久保流にいえば、「やっかいもの(ごみ)を宝(堆肥)に転換し、喜び(農産物)として循環する」仕組みである。やがて行政も加わり、町ぐるみの「環(わ)の町」づくりへと広がった。小久保さんは今、国際協力の一環として、農業技術とともにこの仕組みを独立後間もない東ティモールで教えている。

小久保さんのように、現場からの独自の発想で地域の可能性を切り拓いてこそ物語は生まれる。国が号令しても生まれるものではない。先の衆院総選挙では、地方分権は隅に追いやられた感があったが、本来、分権型社会として期待されていたのは、方々で地域が誇れる物語が生まれるような社会である。

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