全国町村会

トレンドを見定めよ

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2886号・平成26年7月14日)

サッカーのワールドカップ・ブラジル大会で初戦を落とした日本代表チームの選手たちは、「次は自分たちのサッカーをするだけ」と口々に語っていた。 それがどこまでやれたかは別として、迷いが生じたら、原点に立ち返るしかない。日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)によって、 30年後には消滅の危機を迎えると名指しされた町村も、同じであろう。基本の風土を生かした地域づくりに徹するだけのことである。

そもそも自治体大量消滅予測には落とし穴がある。1つは、人口推計は母数が小さくなれば精度が低くなることだ。町村別の長期人口推計は、 当たり外れが大きいだろう。2つ目は、平成の市町村合併を見ればわかる通り、町村を消滅させれば、むしろ過疎化や一極集中が加速されることだ。 3つ目は、田園回帰への兆しを見過ごしていることだ。「金より命」へと世の中のトレンドが変われば、人の流れも変わろう。

思い出すのは、宮崎県綾町で町長を務めた郷田實さんの言葉だ。郷田さんは、「ニーズよりトレンドだ」といっていた。今、 人々が求めるものに飛び付くより、時代の先を読めというのである。林野庁が綾町にある国有林を伐採しようとした際、郷田さんは、 茶や蚕などの照葉樹林文化は日本文化の原点であり、世界でも貴重な綾町の照葉樹林は残すべきだと時の農相に直訴し、 やめさせた。「農産物は、人をだまさない本物でなければならない」として、自然生態系農業推進条例を定め、有機農業で先駆けた。その後、 綾町は照葉樹林の保全が評価され、2012年にユネスコ(国連教育科学文化機関)のエコパーク(生物圏保存地域)に登録された。 安全な農産物を提供する町という定評も得た。トレンドを見定めたまちづくりのお陰で、人口の減少もない。

昔、森林を伐採しすぎて滅びた文明があった。森林や田園の守り手である町村を消滅させるような文明は滅ぶ。自治体消滅より先に、 文明の行く末を案じた方がいい。

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