全国町村会

「吉里吉里国」の志

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2845号・平成25年7月1日)

「吉里吉里国」といえば、井上ひさしの奇想天外な小説『吉里吉里人』の中で、小さな村が打ち立てた独立国の名称だが、三・一一の大津波の後、 岩手県大槌町吉里吉里地区で本当に「吉里吉里国」が誕生した。といっても、独立国ではなく、NPO法人だが、自立の志は小説並みに高い。

「吉里吉里国」設立のきっかけになったのは、「復活の薪」プロジェクトである。吉里吉里地区の避難所には、岩手県職員が持ち込んだ薪ボイラーのお陰で風呂が設けられた。避難生活を送る人たちが、 がれきの中から廃材を集めて、切ったり割ったりして薪を作った。この薪を「復活の薪」と名付けて、外部にも販売したのである。

津波の記念や教材にしたいといった希望もあり、全国から薪への注文が殺到した。コメ袋に十キロずつ薪を詰め、一袋五百円で販売したのだが、五千袋販売したところで廃材が尽きてしまった。 それでも、被災者たちの小遣い稼ぎになったし、代金は地域通貨を発行して分配したから、その分、地元で金が回ることにもなった。

「吉里吉里国」は、「復活の薪」の成功を土台に、より息の長い地域づくりを目指して設立した。吉里吉里地区の漁師の家は、小さいながらも山林を保有する「漁家林家」が多いが、 燃料が薪から石油に代わって以降、山を放っておく家が増えた。「吉里吉里国」はそうした荒れた山林の手入れを引き受けている。山が再生すれば、海の再生、地域の再生に結び付くという読みだ。 名付けて、「復活の森」プロジェクトである。

「吉里吉里国」の理事長を務める芳賀正彦さんは、「海と山の恵みをいっぱいもらって生きていけばいい。薪割りや少しの不便さを楽しむような生き方ができれば、心豊かに毎日を送れる。 そういう人たちがたくさん住むようになれば、それに勝る地域のブランドはない」という。そこには、株価や為替の乱高下に振り回されない、自然と共に歩む悠々自適の復興の姿がある。

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