全国町村会

湯治場の復活

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2819号・平成24年11月5日)

宮城県の東鳴子温泉の老舗旅館の主であるOさんから、温泉地の今昔物語を聞かせてもらった。Oさんによると、昔は農家や漁師の人たちが農・漁閑期に湯治にやってきて、 1〜2週間滞在した。毎年恒例だったから、客同士も顔なじみだった。

高度成長期に入ると、それまでと温泉の雰囲気ががらりと変わった。保養より観光が主流になり、団体客が押し寄せ、がむしゃらに働いた分、がむしゃらに羽を伸ばす場になった。 旅館は競って宴会場を広げ、大量集客に備えた。しかし、バブルがはじけると、温泉街は宴の後のように閑散としてしまった。世の中全体がせわしなくなり、長逗留の湯治客も稀になった。

さて、寂れた温泉地をどうするかだが、Oさんは、原点に戻って、湯治場として再生させるしかないという。客が減ったから、仕方なく昔に戻るというのではない。 団体客のどんちゃん騒ぎで明け暮れていた間に、肝心の温泉の価値が忘れられていた。自然の恵みに対する感謝の念や、その恵みを最大限に生かすための作法も失われた。 温泉には体内にたまっている不要なものを外に出す作用がある。しかし、それには、1泊や2泊では足りない。昔の湯治客はその辺を心得ていた。年中行事の中に湯治を組み入れる 生活の知恵や湯治文化を蘇えらせたいというのがOさんの願いである。

この話を聞いて、温泉の今昔には、日本の近代が映し出されており、湯治場の復活という志には、壁に突き当たった日本の活路が暗示されていると思えた。恐らく、 団体客に沸いた一時期の繁盛の再現を夢見ても無理である。自然の恵みを生かし切る今風の生活スタイルを見つけた方がいい。

Oさんは、「田んぼ湯治」や「地大豆湯治」という新しい湯治のスタイルを提案している。昼は田畑で汗を流し、夜は温泉に浸るという、土から離れた都会人向けの提案である。 その成否はともかく、これぞ温泉地としての王道と感じ入った。

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