全国町村会

失われた十年を越えて

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2714号・平成22年3月29日)

ひとまず嵐の時期は過ぎた。平成の合併騒動も三月末で一区切りである。町村の数はざっと三分の一に減った。その分、市は増えたが、都市の体裁を備えた地域が広がったわけではない。広大な田園や山岳を含む都市とも農村ともつかぬ奇怪な市が続出しただけのことである。

歴史や風土を体現した地名が失われたところも少なくない。そこでは、子供たちにどう教えるのだろうか。歴史や風土はどうでもいい。商品のブランドと同じで、外部にPRしやすければいいのだと安直な商法を教えるつもりだろうか。

十年前に施行された地方分権一括法は国と地方を上下・主従から対等・協力の関係に改めるものだった。しかし、国が旗を振り、都道府県が圧力をかける合併推進のどこに対等・協力の精神があったというのか。文献の受け皿をつくると称しながら、その手法が旧態依然の中央集権そのものでは、分権改革も台無しではないか。町村は分権一括法をどう生かすか考える余裕もなく、合併に追いまくられた。地域づくりの「技術革新」も停滞した。町村の「失われた十年」である。

救いは、脅しに屈することなく、甘言に乗ることなく、この十年を耐え抜いた町村の存在である。再び嵐が襲うかもしれないが、一度試練を経て、地域を守り抜く決意をした自治体は強い。平成の合併の予期せぬ成果は、少なからぬ地域で自立の精神を甦らせたことである。

岡山県の北東隅に西粟倉村がある。人口千六百人の小さな村だが、合併では持続可能な「低コストの満足社会」はつくれないと見切りをつけた。今は「百年の森林(もり)」事業に取り組んでいる。森林の管理を村が請負い、五十年生の森林をさらに五十年守り続け、地域経済循環の豊かな村にしようという試みである。「大切な自然の恵みを大切な人たちと分かち合う上質な田舎づくり」だという。こんな息の長い、志の高い挑戦もある。町村の未来にはなお希望が持てる。

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