全国町村会

いのちの世界に返れ

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2660号・平成20年11月24日)

世界的な金融危機により世界の株式の時価総額はほぼ一年前のピーク時に比べ約三千兆円減少したという。数字が大きすぎて、とても実感がわかないが、ざっと半分になったと見ればいい。「おかねの世界」の振幅は途方もない。

人は他の生き物と一緒に「いのちの世界」に生きているが、同時に「おかねの世界」にも生きているからややこしくなる。「おかねの世界」が豊かになれば、「いのちの世界」も豊かになると信じてやってきたが、そうでもないらしい。

過疎化が進んだのも、山が荒れたのも、耕作放棄地が広がったのも、おかねを追い求めた結果である。おかねがあれば、冷凍食品で食事を済ませることもできるから、面倒な料理は段々しなくなった。家庭でのしょう油の消費量が昔に比べ半減という統計数字がそれを物語っている。家庭でおふくろの味が失われれば、親子の絆も細る。

「おかねの世界」が豊かになるにつれ、風土は壊れ、人の絆は弱まるといった具合で、「いのちの世界」はむしろ貧しくなっている。

世のためになる事業を興そうとする志に共鳴して出資するのが株式会社の原点だとすれば、そこには志や共鳴といった「いのちの交歓」がある。しかし、金融工学を駆使するマネーゲームはそこからかけ離れた数式の世界である。志も共鳴もない。あるのは強欲だけだ。今の金融危機は「いのちの世界」で根を失ったおかねの亡者たちに下った天罰に見える。

もう血眼になって「おかねの世界」をさまようのをやめて、「いのちの世界」に返る時ではないか。陶淵明の「帰去来の辞」さながらに、「帰りなんいざ、田園まさに蕪(あ)れんとす」である。いのちのにぎわいを第一に考える世の中への転換である。それは、「おかねの世界」では後方集団にいた町村が主役に躍り出ることを意味する。いのちを育む場である町村の復権である。「いのちの世界に返れ」と人々に呼びかけようではないか。

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