全国町村会

カジノと遵法精神

評論家 草柳大蔵(第2397号・平成14年5月13日) 

誰の知恵か知るところではないが、「世界中でカジノを持っていない国は日本だけ」という“カジノ開設待望論”に、法的根拠として文化芸術振興法というのが登場した。

カジノ運営者と開催地の自治体の間の“テラ銭”の分配の仕方は、戦後すぐ東京都が実施したTOTO (スピードくじ)に準ずるという。

いまのところ、自治体側からは賛成にせよ反対にせよ声は挙がっていないが、文化芸術振興法によってカジノが公開される場所は、北海道、沖縄、離島、半島が優先されるようである。道理で私の住んでいる熱海など、ときどき色めき立ったような記事が地方紙に載るが、熱海市と目と鼻の先には初島があり、また熱海市自体が沈滞の色濃い伊豆半島にある。離島と半島の二枚のカードを手にしているようなものである。

日曜日のテレビに“時の人”の石原慎太郎氏が出演して、先進国でカジノのないのは日本だけと言い、アメリカのラスベガスではマフィアに仕切らせているからトラブルが起こらないと発言したりしているが、石原氏の言論の重心が「作家」の方に傾くと、えてしてノーテンキな表現になるので、こんどもその類いではなかろうか。たしかにラスベガスの治安や犯罪件数がカジノと有意の関係を示すデーターは見かけないようだが、マフィアのドンたちが四六時中潤沢にあがるテラ銭を麻薬や銃器の資金源として使っていないという証拠も明らかではない。

カジノが出来たからといって、急坂を転げ落ちるように日本人のモラルが低下するとは考えられないが、法律さえ作ってしまえばなんでもできる、という無力感を国民の間に浸透させないかどうか、それが心配である。この国は衰えたりとは言え、国民の間のコンプライアンス(遵法精神)は他国よりは数段マシである。この最後の資産を守るべく、自治体も辛いだろうが、カジノはカジノ、文化芸術は文化芸術と、話をわけて論議してはいかがか。

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