全国町村会

心憎い話

評論家 草柳大蔵(第2306号・平成12年3月6日) 

アメリカに端を発した電子商法は、いまでは「Eビジ」と、ネスを略して呼ばれるほど普及しているようだが、最近、Eビジ間て優劣の差がはっきり出てきたという。業者と消費者がパソコンの画面に出る情報をクリックして売買するという単純な取引はダメで、「クリック・アンド・ブリック」をやっているところが業績を伸ばしている。ブリックとは煉瓦のことだが商売の上では倉庫を意味する。ブリックを持っていないところは、客の注文を受けてからメーカーや卸業者をインターネットで探して消費者の許に届けるが、倉庫を持っている業者はキメの細かい市場調査を行い、品揃えを整え価格を低目に設定し、商品をすぐ消費者に届ける。ここまでは、あまり際立った話ではないが、その後がおもしろい。たとえばハムやベーコンを扱っている「クリック・アンド・ブリック」だと、品物を顧客に届けてから、2、3日後。中年の女性がおだやかな口調で電話をかけ、「お届けしたハムはお年寄も抵抗なく召し上がれましたか」とたずね、「そろそろハムも無くなる頃と思いますが、お買い足しいただけますか」と聞くのである。人情が紙風船のように薄くなった社会では、この電話による“心づかい”が一段と相手の心にしみとおるのか、顧客はその会社のファンになるという。

日本にもその例があって、私の家で取り寄せている鳥取県の豆腐屋は、ときどき“汲みあげ”(ニガリを入れて固める前の豆乳)を送ってくれるし、贈答先のケースの中には商品のカタログは入れるが、値段はついていない。贈り主の気持を配慮していることが、受け取った方にも、心憎い仕事としてよい印象を与えている。

最近は、どこの町を訪れても商店街の荒廃が目立つ。クルマ社会の定着と大店法の自由化が原因だが、そのために「やる気」を無くした商店主たちが職住分離の形で郊外のマンションなどに住んでいることが、町への愛着を失わせていよう。いっそのこと、感じの良い商店街をつくろうという人たちにやらせてみてはどうか。

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