全国町村会

針葉樹の「死の森」から

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男(第2830号・平成25年2月25日)

今から四半世紀以上前だが、チェルノブイリ原発事故のときドイツにいて、憧れのドイツの森でのキノコ狩りも野生動物の肉料理も味わえなかった。フランス絵画に出てくる照葉樹林が ドイツ絵画に多い針葉樹林にどの地点で変わるだろうかという興味で、パリからミュンヘンに戻る際に、ウィーン行の国際特急「モーツアルト号」に乗って美しい森を見続けたことがある。 独仏国境にあって両国への帰属で揺れ続けたシュトラスブール付近で一気に植生が変わったように思う。森には深い魅力がある。

岸修司『ドイツ林業と日本の森林』(築地館書房・2012年)に接した。49歳で県立高校の理科教諭を休職してドイツに渡り、徹底して森林に関する教育と現場を見ての報告である。 森の機能や地域特性を無視して特定種の植林を続け、鉄砲水を引き起こす山づくりをし、赤字を生み続ける日本の森林・林業。西欧に比べて100年遅れた非科学的日本林業が鋭く告発されている。 日本の森林法の第1条は、森林管理のなんたるかの基本理念さえ述べていないという。知らなかった。本書は、まさにボロボロになっている日本の森林管理の悲惨な状態を描くが、実は森林も また現在の日本国家の縮図なのである。

森林生態系の本来の姿に無知な日本の大学や官庁の森林「専門家」への舌鋒は鋭い。ドイツでは、連邦政府森林庁の高級官僚は公募され、大学教授資格、現場での実務体験、研究実績が 求められ、森林官全員が高度の学術性・専門性を備えている。森林局も地元密着型で森に隣接してあるという。

日本のいい加減な相続とその後の登記制度の機能不全も森の瀕死の一助となっている。日本の林業行政の見直し、日本の「森」の復活には、革命に近いほどの思想改革や政治・行政の改革が 必要だ。一事が万事、森林に限らず、日本社会で専門性・科学性を活かす議論や提言が少ない。

針葉樹主義の日本の「死の森」は、細い木が林立しているから「線香林」と揶揄されているそうだ。徹底した「新しい森」づくりの思想と実践が要る。ちなみに、筆者の実家の屋号は 「死の森」ならぬ「新森」であるが、何の役にも立ちそうにない。

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