全国町村会

20年経って光り輝く村

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男(第2780号・平成23年11月14日)

前回は、「自治の「肝」を探る根本的な議論が必要ではないか」と締めくくった。その「肝」を確かめるために、この9月、2週間余にわたってドイツとスイスの町村で役場職員や住民から生の声を聞いてきた。ここ20年来不安と不透明感に包まれた状態の続く日本と比較して、これらの国の顕著な豊かさが目立つ調査となった。結論から言えば、どうも「肝」の種類が全く違ってきたようである。

ドイツでもスイスでも、「地方自治法」なる法律学は衰退産業という。小さな町村の重要性が国家的に認識されているから、制度いじりも学問的検討も緊急性を持たない。今はヨーロッパ法とか知的財産法とかが脚光を浴びる研究分野である。自然環境が守られていた時代には環境(保護)法律もなく、環境法という学問分野もなかった。両国とも地方自治制度とその運用が相対的に安定しているため、地方自治法は大事な研究対象科目ではなくなった。どうも日本とは違う。

日本人の目からすればもっとも荒廃が著しいと推測されそうなドイツ中山間地シュヴァルツヴァルトにある人口1,500人のゼーバッハ村を20年ぶりに訪れた。この間、人口減や農林牧畜業の衰退もあったのではと危惧しつつ村に入った。何と1992年の訪問時に比べて人口減はなく、村の家々はいっそう美しくなり、農家や民家の屋根には大規模なソーラー発電のパネルが敷き詰められている。村全体が非常に明るい。標高差600メートルの村内に光ファイバーが張り巡らされ、村の広報誌は廃止されてネット配信に代わっていた。村内には産業地区も新設され人の動きは大きいが、村長は村内に失業者が2名いることが大問題だと言っていた。

どうやら、「肝」は、地方自治を直接左右する法律というよりも、官僚制や首長・議員の選挙の制度と実務、政治教育の度合いにありそうだ。遡れば、日本人の政治離れをもたらした半世紀に及ぶ愚民化政策の影響は大きい。潜在的に日本人はそう無能ではないと思うが、この数十年モノが言えなかった。全体が官僚組織化している。そういえば、スイスでは「公務員」という法律用語がなくなっている。

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