全国町村会

〈住民運動〉と〈まちづくり〉

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男 (第2746号・平成23年1月24日)

このところ「住民運動」が介在している産廃施設問題に接することが多い。見聞の範囲ではなぜか相対的にみて良心的な産廃処理企業が行政や地元住民から目の敵にされている。稀ではあれ反対運動がときに「進歩的」地方議員の集票装置化している疑いを感じることもある。問題とされる産廃処理場の現地に行くと、近くにもっとひどい処理場が倒産後放置されたり、周辺に大きな弊害をもたらしているケースもある。

過去の多数の廃棄物業者が行った行為から、自然、飲料水、農業生産物などの被害発生を懸念する付近住民の方々や地元自治体の心配は理解できる。比較的良心的な業者が応じざるを得ない公害防止協定は業者側の義務だけを定めた片務的なものが多い。

紆余曲折を経て、公害防止協定を結んだ上で廃棄物処理場ができる、あるいは、業者が撤退することもあるだろう。そこで、せっかくの「住民運動」が、次のステップとして「まちづくり」につながっているかどうかが気になる。

「まちづくり」の先進事例研究は枚挙に暇がない。だが、この種の反対・抵抗型「住民運動」が、「まちづくり」につながった事例はあまり見つからないし、その種の研究も乏しい。

どうも、「住民運動」と「市民運動・まちづくり」は違うようである。「住民運動」の英語訳も複数あるが、「まちづくり」に至ってはあまりに多義的なためか適切な訳語がほとんど見つからない。市民運動は、狭い地域を越えた活動が念頭に置かれることが多いようである。こちらの運動は、狭域の集合的利益よりもいっそう広範囲な共通利益の発展などを対象とするものが多そうで、反って「まちづくり」という言葉と親和的な感じがする。しかし、狭域という点からは、「住民運動」の地理的範囲こそが、一般的な用語でいう「まちづくり」の範囲と重なりそうな気がする。

なぜ反対型の「住民運動」が「まちづくり」という成果に一般的には結びつかないか。「産廃を受け入れないまちづくり」という実践もあるが、産業発展の恩恵は誰もが少なからず受けている。産廃問題を契機にした「住民運動」の成果としての「まちづくり」の実践例にもっと接したいと思う。

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