全国町村会

自治体の幹部と議員にブックスタートを

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男 (第2663号・平成20年12月22日)

高等教育は進んだはずなのに、相変わらず「読み書き算盤」の世界に弱い自治体職員や首長、議員が少なくない。漢字が正確に読めない政治の最高責任者もいるやに聞く。

人口10万人近い市の市長が、女性だけの集まりでの挨拶の中で、事前に職員がルビをふっておかなかったばかりに、「団塊の世代の皆様」を「だんこんのせだいの皆様」と読んでしまった。「塊」と「魂」の読み違いである。議会での質問書、答弁書とも大きな文字にルビだらけという市町村も珍しくないようである。

最近では、議員の立候補者になるにあたって、公務員の初級試験に合格していることを要件とすべし、という議論も出てきた。日本の行政全体の「キョーヨー」度が問われている。先頃、北海道恵庭市長の中島興世氏に、九州の自主研究会主催による職員・議員・市民向けの自治体法務入門講座で特別講演をお願いした。同氏の講演の圧巻は、乳児のときから本に親しむようにするブックスタート事業の驚くべき成果であった。

ブックスタートは、1992年にイギリスで始まった。日本で最初に施行したのが、中島氏がアイデアを出した恵庭市である。「ブックスタートは単なる読みきかせ運動ではなく、子育てや人間づくりの基礎的な役割を担っている」として、同市はこの事業を行政の重要な柱に位置づけている。

この市では、年に100冊の本を読む児童は普通の子。読書習慣の付いた子どもたちは、小学校に入学するとまず図書室に行きたがるという。そして、同市内の小中学校では不登校、いじめなどが減り、校長会で生徒指導が問題になることはなく、周辺自治体の教員にとってダントツの転勤希望先だといい、ある教員家族が同市に転居してきたという極めつけの例も生まれた。

小さい頃からの読書環境と読書習慣は、どうやら思考力も鍛え、空恐ろしい勢いで潜在力を開発しているようである。字も十分に読めない自治体幹部や議員に、高卒程度の学力試験とブックスタートを是非とも普及させたいものである。

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