全国町村会

「4.2.3.」

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男 (第2637号・平成20年4月21日)

中島みゆきのアルバム『わたしの子供になりなさい』に収録されている最後の曲のタイトルである。

曲名の「4.2.3.」は、ペルーのフジモリ大統領が人質救出のために武力を行使した日付を日本時間で表現したものという。それは19970年4月23日だった。中島は、死亡した現地の軍人の生き様や、彼らの家族にはまったく思いを馳せることなく、日本人が救けられ、人質が手を振り、元気そうで笑顔です、という嬉々としたリポーターの興奮した声の連発を聞き、「見知らぬ日本人の無事を喜ぶ心のある人たちが、何故救け出してくれた見知らぬ人には心を払うことがないのだろう」と問う。

オリンピックを目前にして、日本人はチベット問題、聖火リレーに関心をもっているかにみえる。ただ、背景にあるのは農薬汚染食品問題などから来るある種の予断も混じったショー見物的要素がない、と言い切れるかどうか。自国でも人権侵害問題は跡を絶たないのに、多々ある問題に同じ視線を注いでいるのだろうか。

一流コラムニストが「壊死する日本」というタイトルの論稿を書き、新聞広告では同一日に2大週刊誌が「日本政府の脳死」を特集し、今や、政府機能のマヒという程度の言葉には誰も驚かなくなった。他国人の人権に政府が筋の通った関心を持てないのは当然かもしれない。

国内でも貧富の格差拡大は、私自身、弁護士業務を通じて、より実感するようになった。他国内の人権問題には敏感なようであっても、自国内の、それどころか自分の人権問題さえ、口にできないような雰囲気もひょっとして・・・。

中島は歌い続ける。「平和を望むと言いながらも日本と名の付いていないものにならばいくらだって冷たくなれるのだろう」。「私の中ではこの国への怖れが黒い炎を噴きあげはじめた・・・この国は危ない。何度でも同じあやまちを繰り返すだろう。平和を望むと言いながらも」。人の命の問題でも、日本人だけが、自分だけが救われればいい、というものではないはずである。

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