全国町村会

<存>

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男 (第2587号・平成19年1月29日)

新春のこととて、何かめでたい話は、とそれなりに探したが、暗い話しかみつからない。賀状にも危機感を募らせるコメントが多かった。昨年末、約10万通の投書から選ばれた恒例の年間を象徴する字は「命」であった。

市町村合併後の様子を、実地に見たり、友人・知人や自治体幹部に聞いたりする。九州の南の方で、「合併のおかげで」という事例が1件あった。ある知人は合併した先の自治体に住むお嬢さんとめでたく婚約が整った。私も披露宴のお招きにあずかっている。彼らに言わせれば「町・町合併」があったからこそ出会えたのだと。私が、ある望年(忘年)会で「これは合併の効果だ」とつい言ったら、「木佐センセイは合併論者に変わったのか」、と北のニセコ町の職員に突っ込まれた。違う、違う・・・。

日本では小規模自治体では、結婚の可能性もないのか、とも考えるのだが、要するに、この町の役場では職員の拘束時間が長いため、とても町外にまで出かけていって出会う機会が少ないからなのではと思う。

もし、市町村合併がなければ巡り会いや結婚も難しいのであれば、超ミニ自治体も多いスイス、フランス、ドイツなどでは、結婚の可能性も少子化の歯止め策もないはず。だが、そういうハナシは聞いたことがない。

本当の刑事事件統計では違うのかもしれないが、マスコミ報道で見聞する限り、昨年は親族間や生徒間などの殺人が多かったようにみえる。虐待も含めて、「命」が問われた。今、合併により新たにできた中心地域とその周辺部に、人々は、漁村地域から、山間部から次々と移住しつつある。そのうねりはとてつもなく大きい。今年は、職業の「存」亡が、地域・コミュニティ・会社の「存」亡が、そして、国家や「自治体の存亡」が、話題になるのではないか。今年の年末のキーワード、まさか、〈存〉にはならないだろうな。「存」には弱いものをあわれみ問う意もあるという。

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