全国町村会

時間どろぼう

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男 (第2530号・平成17年8月8日)

日本のいたるところで「行革」が叫ばれているが、その中に、職員が電話したり、文書作成したりするのに要する時間についてのコスト意識は含まれているだろうか。もし、相手が留守や話し中の場合、メモ帳や電話番号表、住所録などを見ながら、また最初から市外局番に始まる電話番号を押しているのではないだろうか。間違い電話の危険性もあり、無駄も多い。「超」電話術、「超」文書作成術もどきの手法はないのであろうか。

1970年代から行政の簡素化・機械化に努めていたドイツ・バイエルン州の内務省では、私が滞在した20年前に、すでに官僚がパソコンに向かって、クリックひとつで電話をかけていた。日本では、電話機の短縮番号機能もあまり普及していない時代のことで、当時の私には、その能率性が衝撃的だった。

以来、私は、2,000件をはるかに超える個人や企業・組織・団体の住所などのデータをパソコンに入れて、オートダイヤル機能を使って1回のクリックで電話ができるようにしている。ファクスもパソコンから直接送る。当然、ワードなどの文書ファイルも美しい印字で相手先に出る。ただし、アナログ電話の大学研究室ではこれがまったく使えない。

また、文書作成時には、1万1千語の単語登録が威力を発揮する。「ひらがな2文字程度」でたいていの専門用語が出る。郵便番号付きの自宅住所も、ひらがな2文字で、漢字版、英語版が出るし、「実家」と打つと、合併で自治体名が変更された住所が1秒で表示される。

一方、21世紀に入ったのに日本の自治体の中には、電子メールの登録アドレスが一定量を超すと消去されたり、特定人のグループ化や開封リクエストが使えないところもあるという。また、文書を作成する上で、文字列の辞書登録機能を使用できないようにしている自治体もあるようだ。

この背景には、職員は必ず悪さをするという性悪説やセキュリティの問題があろうが、そもそも時間コストという重要な価値を認識できていないという問題はないのであろうか。

何のための機械化、IT化なのか。手作業を繰り返している姿を見ると、「人件費を戻せよ」と言いたくなる。ミヒャエル・エンデとは別の意味だが、「時間どろぼう」ではないか。ほとんどの役所に欠けている時間コスト感覚の見直しのときである。

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