全国町村会

自助・自立のための前提条件

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男 (第2465号・平成16年1月19日)

「日本の若者の郷土愛は少ない。わが国の農山村には、もっと多くの若者がいる。」と、ジェトロ(日本貿易振興会)とも親しいドイツの人口1,500人の村で村長が10年以上も前に言っていた。

昨年末、四国の山間部で、地元の過疎対策に貢献しようとする60歳代半ばのご夫婦に出会った。お二人は定年後、ヤブツバキの大木や棚田を活かしたグリーン・ツーリズムや70、80代の地域住民を想ったネットワーク事業を試みようとしている。しかし、彼らの思い入れと努力だけでは、周辺住民全体の生活の豊かさには結びつかないだろう。

一方、中国山地の小さな町の「道の駅」では、数々の薬草入りの香ばしい薬膳パンが並び、農家の婦人が採れたての農作物を販売している。その奥に行列のできる洋風薬膳料理レストランがある。ご飯は黒米、お正月料理風にアレンジされた薬膳ランチが出され、薬草の種類と効能を説明してくれた。昨今の健康ブームにも乗って、地元の新鮮食材を都会的センスで食する発想が顧客ニーズに合致している。

確かに、農業生産者の起業やニュービジネスへの試み等、住民自治による点や線の規模での地域づくり、地域起こしの成功例はある。だが、一人勝ちはあっても地域全体の底上げは難しい。

日本中の過疎地では、少子高齢化が限界にきている。地方分権、情報化、IT化時代と言いながら、首都圏への人材と管理機能の一極集中が進む。卑近な例では、大学人も関東近辺への転職を目指し、首都圏以外の大学は情報収集や就職対策のために都内にサテライトを持たざるを得ない。企業は本社を東京に移し、支社廃止も目につく。果たして、地域の自助努力不足なのか、国策の失敗なのか。

ドイツの小さな町や村には、職業訓練施設や調査研究機関等、実に多くの連邦や州の各種機関がある。高学歴、高収入の人ほど田舎に住んでいる。それは、医療と教育、生活に不安がないことに加えて、ムラ的な閉鎖性や郷土愛の強要がないから可能なのだろう。

他人の生き方や思想に寛容で民主的な地域社会づくり、アントレ(創業)精神をもった人材の確保、そして国策として官公庁や大企業等の意識的な地域配置が徹底されなければ、農山漁村地域の荒廃は止まらない。まさしく、世界に数十年遅れた日本ムラの三位一体改革が求められる。

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