全国町村会

香りの設計

静岡文化芸術大学学長・東京大学名誉教授 木村 尚三郎
(第2510号・平成17年2月21日)

旅先の印象に欠かせないのはいい匂い、いい香りである。フランス東南部のブルゴーニュ地方は、西南部のボルドー地方とともに、ワインの世界二大産地であるが、秋の収穫期に訪れると、むせかえる匂いに包まれる。丘陵地帯の美しい景観とともに、忘れられぬ思い出が心に刻まれる。

パリを歩けば店先からパンを焼く香ばしい匂いが、ウィーンのカフェハウスではいいコーヒーの香りが、それぞれ町の魅力を生み出している。西伊豆の松崎町では、桜餅用に栽培されているいい葉の香りが畑からしてきて、全国一の生産地となっている。同時に町で売られている桜餅が、これまた滅法旨い。

このような香りが、町の欠かせない魅力を形づくる時代がやってきた。先行き不安の気持ちに包まれると自己防衛本能が高まり、嗅覚が鋭くなるからである。匂いの良し悪しが、町の印象を大きく左右するということである。花かハーブ、お茶その他、草木のいい香りが町の品格を一段と高める。ヤキトリのいい匂いと味は、外国人にも好評である。反対に、公衆トイレやゴミ、ドブ川などの悪臭は、町のイメージを極端に悪くする。

病院の薬臭い匂い、老人ホームの老人臭の、ウッとくるいやな感じが取り除かれ、爽やかな花の香りや、あるかなきかのお香のいい匂いなどで満たされたとしたら、女も男も、老いも若きも元気が出て、町に活気がよみがえる。マンションの場合にも、これからはいい木の香りとともに、若い人向け、お年寄り向けそれぞれの「香りの設計」がなされれば、町の幸せ度は格段にアップする。

息も絶え絶えの商店街に、鉢植えのいい色と香りの花が並べられ、買い物客にプレゼントされれば、客は必ず戻ってくるだろう。そこにいい香りと味のオープンカフェが出来れば、イメージは決定的によくなる。

「香りの設計」が、町の魅力に不可欠のときがやってきた。

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