全国町村会

今も響く古典のメッセージ

千葉市男女共同参画センター名誉館長・NHK番組キャスター 加賀美 幸子
(第2953号・平成28年3月14日)

「言葉」は、伝えるだけではなく、ものを考える道具でもあり、内に向かって自らを叱咤激励するものでもある。今若い人たちの事件事故のニュースを見聞きするたびに、 自らを説得し励ます言葉を持っていなかったのではないか、考える言葉も乏しかったのではないかと辛くなる。自らを励ます言葉を内に持っていれば、周りからどう扱われようと、 どんな状況も乗り越えられるはずではないだろうか。

言葉の力に若い人たちは気づいてほしいのである。仕事がら長い年月、言葉と向き合っていると、今の時代、ますます活き活きと響く古典の新鮮さと日本語の力に改めて気づき励まされる思いである。 古典や漢詩の番組を長く今も担当しているが、古典を読んでいると私たちはいかに古くから漢詩に親しんできたか、改めて知らされるのである。

多くの例があるが…教科書でも取り上げられる『枕草子』の中の「香炉峰の雪」の段は、地域、国、時代を超えて胸に響く。…ある雪の日、 清少納言の仕える中宮定子が「少納言よ香炉峰の雪はどうであろう」と仰るので、御簾を高く巻き上げたところ、 中宮さまは嬉しそうにお笑いになった…中宮も清少納言もみんな「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聞き 香炉峰の雪は簾を撥げて看る」という白居易(白楽天)の漢詩を読んでいたのである。 しかしその後がいい。「廬山は昔から名利を棄てた人のすむところ、ささやかな司馬という職だっていい。心身とも安らかに暮らせる所こそ安住の地、 なにも都・長安だけが故郷・人生の目的地というわけでもあるまい」と言い切っているところである。

香炉峰の雪の部分が有名だけれど、その後に続く「唐の都・長安をみんな目指すけれど、安住できるわが地こそ大事じゃないか」という白居易の結びをうれしく読む。 地域、国、時代を超えて納得できる人々の心ではないだろうか。

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