全国町村会

皆既日食 古事記 そして神楽

千葉市女性センター名誉館長・アナウンサー(元NHK) 加賀美 幸子
(第2689号・平成21年8月10日)

今世紀最大、46年ぶり…皆既日食は今まで、どれほど日本で見られたことであろう。私たちが知る最初の記述は「古事記」の中に見事にとどめられている。天照大神(あまてらすおおみかみ)が天岩屋戸に隠れ、地上は真っ暗。しかしアメノウズメノミコトのおかしくもエネルギッシュな踊りと他の神々の知恵で再び岩戸が開き光がさすという神話はまさに日食を指しているといわれる。

国造りのころをはじめ、多くを知る稗田阿礼(ひえだのあれ)が語ったことを、太安万呂(おおのやすまろ)が記した日本最古の歴史書「古事記」。古事記の中の「天岩屋戸の場面」は、当時各地で多くの人たちが皆既日食の不思議について同じ様に感じていたことなのであろう。

稗田阿礼が語ることで、それは宮中関連だけでなく、全国各地に瞬く間に広がり、町や村で、欠かすことのできない晴れの日の神楽舞となって、代々受け継がれ定着し、今日まで続いてきたのである。「古事記」の中の神々は、何と人間くさく親しみが持てることか。その神に、豊作と安全を祈る神楽舞…「古事記」からは約1300年。人々はそれぞれの風土と文化の中で土地特有の神楽を生みだし伝え続けた。

先日の皆既日食に合わせて、福岡で、「古事記の世界に神楽舞う」という会が催され、私は天照大神が岩戸に隠れ、再び光りがさす場面の朗読で参加した。古事記の朗読と神楽舞…その相乗作用で1300年が立ち上がってくる。福岡県には神楽舞を行っている所が現在約50もあるという。当然全国各地にも様々な神楽 が数多く存在し、伝える努力がなされているはずである。「古事記」は私たちを素朴でエネルギーに満ちたかつての日本に誘ってくれる。神楽は、貧しくも心豊かに力強く日々を重ねてきた祖先たちの道のりを思い起こさせてくれる。1300年を繋いでくれる宝の舞。古い郷土文化として遠くから見るだけでなく、土地 に深く係わる祈りと心と形を、直接味わう機会をもっともっと大事に持ちたいものである。

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