全国町村会

チューリップ

千葉市女性センター名誉館長・アナウンサー(元NHK) 加賀美 幸子
(第2611号・平成19年8月29日)

チューリップの花をみていると、♪咲いた 咲いた チューリップの花が…と口をついて出てくる。私達かつての少女達は、画用紙にお日様と家と女の子、そして何故か傍らには赤、白、黄色のくっきりしたチューリップの花…という絵を、ある時期、何故か、みんなが同じように描いていたのを思い出す。戦後すぐの時代のこと。聞けば、そのころチューリップの球根栽培が日本に於いて急激に増えたそうである。

最近、チューリップの町として有名な富山県砺波市を取材した。球根栽培農家の石田甚三さんは94歳。凛とした風情で、ひたすら黙々と球根栽培に携わっている。その働く姿には、何かを見つめ続ける、揺ぎ無い姿勢が貫かれていて、惹き付けられた。眼鏡もかけず、新聞も読み、読書が趣味、達筆の細かい字で毎日欠かさず日記をつけている。昭和10年から19年までに召集4回、その間も書きうるかぎり記し続けてきた手帳が手元に保管されてある。戦争について直接語れる人が少なくなっている現在、参戦について伺ったが、「語りたくない」と透き通るような眼差しで毅然とおっしゃる。戦いとは所詮勝ち負けのこと。勝っても負けても語りたくない。子供や孫にもあえて話していない。そのかわり自らを綴った日記がある。読んでくれてもよい。忘れてもよい。でも遭ったことは残しておかなくては…という思いを語ってくださった。甚三さんの軍事日記には、生業として大事にしてきたチューリップ栽培のことはあえて書かれていない。

チューリップの歌は戦前の作詞であり、「赤白黄色…どの花もそれぞれみんなきれいだ」という平和の歌でもある。「花の栽培などで戦争に勝てるか」という暗い時代であった。戦後、復員した甚三さんは、その分、力の限りチューリップに命をかけた。砺波のチューリップは日本各地に平和の花を咲かせた。 

♪どの花みてもきれいだな 

私たちの知らないところで、平和の心は重なり、伝わっていくものだと、改めて口ずさんでみた。 

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