全国町村会

優しい大地

千葉市女性センター館長・アナウンサー(元NHK) 加賀美 幸子
(第2501号・平成16年11月29日)

あるフランス人から「日本の言葉は、さらさら流れる小川のように美しい響きですね」と言われたことがある。「何々さんという苗字の呼びかけが柔らかくて素敵!」とも指摘された。口に出してみた。「町村さん・町田さん・村田さん・山田さん・山川さん・川村さん・小川さん・大山さん・畑ん・森さん・原さん…」その他、限りなく続くどの名前も響きが柔らかく暖かいことに改めて気づく。苗字帯刀が許されたとき、我々の祖先たちは、一番大事なよりどころを選んだ。それはまさしく住まいと生業と人々を包み守る、町や村、そして自然を表す言葉たち…田畑、山川、森林…等々。自然の言葉は豊かで優しい。

自然は台風や地震など自然現象と共に、時に荒々しい災害を見せつけるが、祈るような気持ちで、鎮まるのを我々は待つ。(被害への対応は大問題だが)祈りも含まれる言葉そのものは深くもあり、やはり優しさに満ちている。名前にしてまで田畑、山川、町村を大事にしてきた日本の暮らしの根本を、二十一世紀の今こそ、考えたい。

いくら科学や科学技術が進もうと、人の暮らしは優しく深くゆとりがなくては枯渇するばかり。枯渇とは大地が枯れ果てること…命が亡くなること。自然破壊や公害の中で、終焉に向かって突き進んでいるような心配や憂いを今、誰もが心の中に持っている。人が憂うと書くと「優」という字になる。更に辞書によれば「優」は「恥」と同根という。「恥ずかしく思う柔らかな心が優しさ」であろうか。「厚顔無恥を憂う心」こそ、優しさであろうか。自然に対して、時に厚顔無恥な行動をしてきてしまった二十世紀。優しく豊かな大地をどうしたら取り戻せるのだろうか。優しさは易しさでないこと、よほど強くないと持てないことを、誰もが知っているのだが…。

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