全国町村会

枕元の辞書

千葉市女性センター館長・アナウンサー(元NHK) 加賀美 幸子
(第2478号・平成16年4月26日)

「ナイトキャップ」とは元々は夜寝る時、髪の乱れを防ぐためにかぶる帽子のことであるが、1日の疲れをとり、眠りを誘う寝酒のことでもある。アルコールの駄目な私の場合、その役割を果たしてくれるのは、枕元の辞書である。

書物は読み始めると、目がいよいよ冴えて、眠れず、翌日の仕事に差し支えることもあるので、ほどほどにしなくてはならないものだが、寝床の辞書は、特に調べる目的も無いので、パラパラと適当に思いつきでめくっているうちに、思わぬ収穫があったり、勝手にとばし読みしたり、自由自在に扱える嬉しい相手である。眠りたくなったら、あえて難しそうな所を見つめているとその内自然にうとうと……としてくる。

辞書といっても大きな厚いものは図書館に任せ、たとえば今枕元に並んでいるのは「江戸ことば」「日本語語源辞典」「常用字解」等々である。その中から「愛」をひいてみよう。「愛」という字は、立ち去ろうとして後ろに心がひかれる人の姿を表している。その心情を愛といい、いつくしむの意味となる(常用字解)」……愛の心は千差万別・千変万化だが、元の字形は後ろ髪をひかれて立ち止まる姿なのであったか……と頷きつうなづつ又頁をパラパラとめくる。

最近では、重い辞書を手にする学生たちの姿を殆どみない。電子辞書やパソコンは、勿論、大いに便利だが、パラパラという紙の音の優しさ、又、同じ頁の中に、探したい言葉と並んで、更に嬉しい発見をすることもあって、豊かな気持ちになることもしばしばである。

「日本語語源辞典」に「優し」を引いた時、隣に「恥かし」が並び、二つの言葉は「同根」と書かれてあり心惹かれた。厚顔無恥でなく、恥ずかしいと思う柔らかな心は、優しさに繋がる…ということであろうか。人生の徳をする実感が嬉しい「紙の辞書」の濃さや厚み、忘れたくないものである。

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