全国町村会

角砂糖と選挙

NHK解説主幹 今井 義典(第2612号・平成19年8月27日)

「政治と金」でこんな話を聞いた――

「せっかくの遠来のお客さんなのに、紅茶に砂糖がなくちゃね。きみ、その先の食料品店で角砂糖を一箱買ってきてくれないか。あ、 それから領収書を忘れずにね」「はい」

候補者の指示で選挙ボランティアが角砂糖を買ってくる。手には角砂糖の箱のほかに領収書、責任者が直ちにノートに貼り付ける。

日本の話ではない。イギリスの総選挙での話、しかも日常的な光景だという。角砂糖一箱ならせいぜい二、三百円、それでもイギリスの選挙では領収書添付が義務なのだ。

完全小選挙区制、個々の選挙区の人口は日本の半分以下。党本部の選挙費用は事実上無制限という「抜け道」はあるが、際立っているのは 個々の候補者の選挙費用の規制が厳しいことだ。選挙区毎の有権者数などで多少の上下はあるが、最近の選挙費用の限度額は候補者一人当たり 平均二百万円余り、しかもたとえ一ペンスでも説明できない支出は認められない。色刷りの候補者ポスターもお揃いの派手なユニフォームも ない。有給の運動員は出納責任者一人しか認められず、あとは手弁当のボランティアだけだ。戸別訪問はオーケー、徹底したドブ板選挙だが、「李下に冠を正さず」候補者のポケットには一文もない。

民主主義のお手本のイギリスだって、最初からこんな立派な制度があったわけではない。十九世紀、資産家でなければ立候補できなかったし、 権力者が金権支配する選挙区も少なくなかった。しかし一八八三年、時の政権が守旧派の抵抗を押し切って成立させた腐敗防止法で、選挙費用に 上限が設けられるようになった。この立法を機にイギリスの政治は一変した。それから一二〇年、金にまつわる選挙違反は影をひそめて今日に至っている。

国民の政治不信解消の第一歩として、政治資金の透明性を保つことがいかに大切か、イギリス政治の長い経験が、何よりもはっきりと物語っている。

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