全国町村会

消えたこいのぼり

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2920号・平成27年5月25日)

  

大型連休の一日、千葉県北東部の小さな美術館を訪ねるドライブを楽しんだ。20年ぶりに成田空港の南を通過して、九十九里方面に向かった車窓から、立派なこいのぼりが見えた。 矢車、吹流し、大きな真鯉に緋鯉、その下にカラフルな4尾の子鯉。見事な姿である。

それで思い出した。20年前も5月の連休中で、新緑が美しい田園風景の中に、一望十指に余るこいのぼりが風に翻っていた。実は、そのまた20年前の1975年にもこの地を訪れている。その時は、 空港建設反対のプラカードや立て看板が林立しており、殺伐とした風景だった。そこが、のどかな田園風景に大きく変貌したことに驚いたものである。

現在のこの辺りは、街道沿いに住宅、大型店、おしゃれな店ができ、ずいぶんと発展している。空港建設や空港施設の運営で大きな雇用が生まれ、経済的に潤っているようである。

しかし、こいのぼりは激減した。最初の一基を見てからは、注意して探してもさっぱり見当たらない。確かに年中行事に関する伝統的な習慣が衰えてきているのだろう。また子供のいる世帯の家は狭く、 大きなこいのぼりを揚げるゆとりがないのかもしれない。だが、それ以上に子供がいなくなっているのである。こいのぼりで祝われた子供たちは成人して、多くは域外で暮らし、役目を終えたこいのぼりは、 もう何年もしまい込まれているのであろう。あるいは自治体や市民団体に寄付されて、公園や川の上に渡されたワイヤーにつながれて、活躍の場を得ているのかもしれない。

それにしても、少子化の勢いは止まらない。15歳未満の子供の数は、この1年でまた1%、16万人減少した。全国人口比では12.7%と40年連続の減少で、人口6千万人以上の主要国で最低となっている。 40年前は35.4%だったから、約3分の1にまで減ったということになる。全国で子供の数が増えたのは東京都だけであった。自治体消滅の警鐘が鳴らされる中、地方でも安心して子供を産み、 育てられる社会をつくることは国の急務である。

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