全国町村会

風を引き込む力、風を吹き込む力

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2887号・平成26年7月21日)

  

人口減少社会に関する増田論文が波紋を広げている。しかし昔から「過疎ではなく適疎」という考え方があるし、たとえ人口が百年前の水準になったとしても、 国際水準から見れば人口密度は十分に高い。人口減少自体はむやみに心配する必要はない。  

ただし地方がこのまま活力を失ってしまってはならない。古来、文化が閉塞した地域は滅びるという教訓がある。地域の文化が閉塞しているようなら、 文化の風を起こす必要がある。人口減少社会の中では、外からの移住者に期待するのは困難だが、交流人口により、地域に文化の風を入れることは可能である。 また高齢化や人口減少で活力を失いそうな地域は、積極的に外に向かって助力の要請をしてよいのではないか。都市住民が地方のサポーターになる例はたくさんあるし、 その予備軍はまだまだいる。こうしたサポーターは、客観的な目で地域の本物の文化を見分けて住民に教えてくれる働きもする。 そしてその地域文化はこれからの地域経済を支える新しいコミュニティビジネスの基盤にもなる。  

さて、人口減少といえば、世界に目を向ける必要がある。たとえばアフリカ中部には、マラリアやエイズ、飢餓、紛争などにより、 平均寿命が40歳にも満たない国がある。医療や教育、産業基盤などの公共投資が必要だが、こうした国では税収が上がるわけもなく、 貧困の悪循環から抜け出すことができない。しかしこの地域に10年間、人口1人当たり年間70ドルの投資をすれば、 住民は自立的な道を歩むようになれるという国連の試算がある。人口5千人の村なら年間3千5百万円で良い。日本の同規模町村の年間予算の百分の一の水準である。 先進国との友好関係も良いが、長期的に見れば町村はこうした地域との関係を築くことを考えても良いのではないか。1枚の蚊帳が1家族のマラリア罹患率を劇的に下げ、 1台のトラックが生活物資や産物の輸送車、救急車になる。このような支援ができれば地域住民の誇りになる。小さい町村であるからこそできる素早い決断で、 風を引き込む力、風を吹き込む力を発揮して欲しい。  

注)後半の記述は、ジェフリー・サックス著、鈴木主税・野中邦子訳『貧困の終焉』ハヤカワノンフィクション文庫2014年4月を参考とした  

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