全国町村会

異文化間の調和点を見出す可能性

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2799号・平成24年5月14日)

最近、哲学の本を続けて読んだ。一冊はサンデル教授の『白熱教室』である。アメリカと日本の大学における教授と学生の対話型授業の記録で、命とは?正義とは?などをテーマに学生と共に考える中で、哲学の根幹に触れていく様を示している。人種や宗教、貧富の差など異なるバックグラウンドを持つ学生が、それらの相違を超えて次第に対立的な意見との共通の基盤を探るという過程が鮮やかに再現されている。民族対立も宗教対立も、互いに相手の意見を最初から聴こうとしないことに起因しているというサンデル教授の指摘と重ねると、若い学生の世代なら解決できるかもしれないという期待が生まれる。とくに日本の学生が見せた、対立する意見をそれぞれ尊重しながら両者にとって共感できる案を見出そうという姿勢に可能性を感じた。

もう一冊は、『シャンタラム』である。実はこの本は哲学書ではなく、オーストラリアの刑務所から脱獄してインドのムンバイにたどり着いた著者の自伝的長編小説である。スラムでの生活、マフィアの一員としての仕事、アフガニスタンでの戦争への参加など、主人公の波乱万丈な暮らし方を見ると哲学からは遠いように見えるが、全編を貫いているのは、インドの人々との出会いに触発された愛を基軸にした哲学である。とくにスラムの世界の記述が秀逸である。一見すると汚く不潔な環境の中に、人種、民族、宗教を異にする住民が寄り集まって暮らす無秩序な世界であるが、そこには徹底した互助の精神が根付いている。紛争の解決法も面白い。たとえば宗教上の問題でけんかをした若者は、足首を二人三脚のように結び合わされ一日の労働をさせられる。二人は否応なく話をせを 得ず、やがて互いに自分の非に気付き詫びることになる。

二冊の本に共通するのは、人間が人種、民族、宗教などを離れて、協調性と向上心を持つ本来の個の人間に戻れば、共通の理解の基盤ができるということである。そして調和を尊ぶアジアの視点が、今後の国際社会に必要かつ重要であると気付かされる。

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